120ページの大学ノートから、自分の筆跡を残したフォントを作る。そんな制作事例が、2026年10月17日にGitHubで公開されました。
作品名は「Harshpreet Hand」。制作者はAIコーディングツールのClaude Codeを使い、手書きのノート写真を加工して、パソコンやWebサイトで入力できるフォントに仕上げました。制作者の報告では、制作セッションは1時間6分、AI APIの利用料相当額は13.68米ドルです。
ただし、これは「ノートを渡すだけで誰でも66分後にフォントが完成する」という話ではありません。工程には704語の文字起こしなど、人の判断や準備も含まれていました。何が完成し、どんな手順が必要だったのか、公開された一次資料を基に整理します。
この記事でわかること:完成したフォントでできること/制作の仕組み/66分・13.68ドルという数字の意味/自分の手書きで試す際の注意点
まず、完成したフォントを見てみる
Harshpreet Handの公式デモでは、ノートに書かれた文字と、完成したフォントで入力した同じ文章を比較できます。画面上の入力欄に英語を打ち込み、RegularとBoldを切り替えることもできます。
画像:制作者(GitHub: harshpreet931)/元画像・CC BY 4.0
特徴的なのは、単に手書き風の形にしただけではないこと。例えば小文字の「l」や「r」、数字の「2」などに、制作者自身の筆跡の癖が残されています。
同じアルファベットにも原則2〜3種類の字形が用意され、入力中に切り替わります。「hello」のように同じ文字が繰り返されても、機械的に同じ形が続きにくい仕組みです。
公開版は英字・数字・記号などを中心に対応しており、ひらがな・カタカナ・漢字を入力できる日本語フォントではありません。
どうやって120ページのノートからフォントを作った?
元になったのは、制作者が大学で取ったコンピューターネットワークの講義ノートです。青いボールペンで書いた120ページをスマートフォンで撮影し、1つのPDFにまとめました。
公開されている制作工程は、おおむね次の流れです。
- 紙から青いインクを取り出す。 写真から罫線や余分な写り込みを分離します。
- 単語・文字を見つける。 ページを分割し、文字の候補を抽出します。
- 文字に正しい名前を付ける。 制作者側で704語を文字起こしし、合計2,479件の文字サンプルを対応付けました。
- その人らしい字形を選ぶ。 複数の候補から特徴的で鮮明な文字を選び、線を滑らかに整えます。
- 不足する文字を補う。 ノートに十分な例がない「G」「J」「X」や一部記号は、既存の筆跡の一部分を組み合わせました。
- フォントファイルに変換する。 字間などを調整し、一般的なアプリで使えるTTF、Web向けのWOFF・WOFF2を生成しました。
画像:制作者(GitHub: harshpreet931)/元画像・CC BY 4.0
つまり、Claude Codeが画像処理やフォント生成のスクリプトを組み立て、人が文字の正しさや仕上がりに関わった制作です。単純な「画像生成AIでフォントの絵を描く」方法とは異なります。
「66分・13.68ドル」は本当?
制作者はGitHubで、Claude Codeへの最初の指示を起点とする制作セッションについて、1時間6分・13.68米ドルと説明しています。利用額はセッションログに含まれるトークン使用量などから、当時のAPI料金で計算したとされています。また、キャッシュの活用が費用の抑制に役立ったと説明しています。
ただし、読み手が注意したい点は3つあります。
- 個別の制作事例の数値であり、同じ費用・時間で誰でも再現できる保証ではありません。
- 「1つのプロンプト」という説明は、人の確認や文字起こしが不要という意味ではありません。
- +A Scopeでは同じデータを使った独立再現テストをまだ実施していません。費用と所要時間は制作者の公開記録として紹介しています。
GitHubの制作記録にはソースコード、工程別のPythonスクリプト、フォントファイル、制作動画へのリンクがあり、完成物の存在は確認できます。
自分でも試せる?
まずは公式デモで英字を入力し、文字が変化する様子を確かめるのが簡単です。Windowsなどにインストールして試したい場合は、v1.0.0のリリースページにあるHarshpreetHand-Regular.ttfとHarshpreetHand-Bold.ttfを利用できます。
自分自身の筆跡で新しいフォントを作る場合は、別の作業になります。ノート画像を用意したうえで、公開コードを自分の筆跡・インク色・文字の種類に合わせて調整する必要があります。公開パイプラインは、青いインクと罫線入りノートの組み合わせに最適化されています。
開発環境の構築やPythonによる処理、候補文字の確認も必要になるため、現状では初心者向けの「写真をアップロードしてワンクリックで完成するサービス」とは言えません。
利用時の注意点
日本語のフォント化は対象外。 今回の完成品はラテン文字を中心とするフォントで、日本語文字の再現は検証されていません。
細かい表示は不得意な場合がある。 制作者は、古いWindows環境で極小サイズの文字を表示する用途には最適化していないと説明しています。
ライセンスを分けて確認する。 公開フォントはSIL Open Font License 1.1、制作コードはMIT、公開画像・ノート素材はCC BY 4.0です。再配布や商用利用に際しては、各ライセンスの条件を確認してください。
まとめ:面白いのは「AIが画像を作った」ことではない
この事例が示しているのは、AIが一枚の画像を作るだけでなく、手元の資料を分析し、加工プログラムを組み立て、実際に利用できるデジタル成果物へ変換するところまで関われるということです。
一方で、文字起こし、字形の選択、仕上がりの評価には人の関与があります。「AIだけで全工程が自動化された」と受け取らないことも大切です。
まずはHarshpreet Handの完成品をブラウザで試す。そこから、Claude CodeのようなAIコーディングツールがクリエイティブ制作に何をもたらすかを考えると、具体的なイメージが湧くはずです。
参照した一次資料(2026年10月26日確認)
編集注:この記事は公開一次資料を基にした海外事例紹介です。+A Scopeによる独立再現・費用実測の記事ではありません。